持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム実現のために~電力中央研究所様インタビュー
2020/10/28
電力中央研究所について教えてください
電力中央研究所(電中研)は、電気事業の運営に必要な電力技術および経済に関する研究、調査、試験及びその総合調整を行い、それによって技術水準の向上を計り、電気事業の技術水準の向上や業務の能率化に寄与することを目的として、1951年に松永安左エ門によって設立された研究機関です。当時、松永安左エ門は、「電気事業共通の課題は一つの研究機関で総合的、効率的に取り組むべき」という考えに基づき、電力中央研究所を運営するしくみをつくりあげました。
それ以降、1957年に農電研究所、1961年に塩原実験場、1964年に農電研究所赤城調査室、1977年に超高圧電力研究所の事業を継承して超高圧電力研究所を設置しました。また、1985~86年に、研究所を地区ごとに統合し、横須賀研究所、我孫子研究所、狛江研究所(それぞれ、後の横須賀地区、我孫子地区、狛江地区)を新設しました。
研究所設立以降、「電気事業の課題解決に寄与する中央研究機関」かつ「科学技術研究により社会に貢献する学術研究機関」として、電気事業や社会が直面する課題の解決に向けて、研究成果の創出・提供に努めています。
電力中央研究所はどのような役割を担っていますか。
電気、情報通信、機械、化学、原子力工学分野などを核とする「エネルギー産業技術研究」や土木・建築、環境分野を中心とした「自然・環境科学研究」、さらには経済学、経営学、法律学などの「社会科学研究」に関して、各研究拠点を形成し、電力をはじめとするエネルギーに関する基礎研究から実用化研究まで幅広く取り組んでいます。
研究分野は、電気事業に係わるあらゆる課題に網羅的に対応できるよう発電、送配電、電気利用から発電所周辺の自然環境、電気事業経営まで広域に及んでいます。
写真上:東京スカイツリーの天望回廊の上部に観測施設を設置し、雷の観測を行い、雷害リスクの研究等も行っています。
写真左:50万ボルト級の電力機器やがいし装置に対して、実スケールでの高電圧試験が可能な設備を有しており、長年利用した電力機器の絶縁性能やがいし装置の霧中および注水条件下での汚損耐電圧性能を確かめる研究も行っているそうです。 |
このような幅広い研究分野に対応するため、原子力リスク研究センター、エネルギーイノベーション創発センターといった2つのセンターと、原子力技術研究所、エネルギー技術研究所、システム技術研究所、電力技術研究所、材料科学研究所、地球工学研究所、環境科学研究所、社会経済研究所の8つの研究所を運営し、各分野の専門性を活かしつつ、分野を横断する研究にも取り組んでいます。
また、電気事業と社会への貢献を果たすため、電力各社の共通課題の解決に貢献する研究、電力各社の個別課題に対応する研究、研究機関としての先見性を発揮する研究、国等からの受託研究を有機的に組み合わせた研究開発ロードマップに基づき、研究開発に取り組んでいます。
研究戦略 電気事業が直面する課題の解決に向けた研究開発を着実に推進するとともに、2050年の日本の目指す姿には「持続可能で社会に受容されるエネルギーシステム」が不可欠であると考え、この実現のために必要な7つの目標を定め、達成に向けて研究に取り組んでいきます。 引用:電力中央研究所パンフレットより |
ホームページには研究成果の掲載の他、研究所見学の取組み等も紹介されていますね。
弊所では、電気事業者だけでなく、一般の方にも研究設備を見学いただいております。横須賀地区、我孫子地区、赤城試験センターでは、毎年1回、地域の皆さまにご見学いただく研究所公開を開催し、日々の活動紹介、施設や実験の見学、お子さまから大人まで楽しめる科学教室など、さまざまな企画を催しています。弊所がどういった研究機関でどういった研究に取り組んでいるのかを知っていただき、また、最先端の研究についても知っていただくよい機会となっています。
日々の研究成果については、研究報告書や学会等での論文投稿、論文発表により、その成果を発信しています。また、年に1回Annual Reportを発行し、事業活動報告や主要な研究成果などを紹介しています。また、ソーシャルメディアを通じて研究活動やイベント情報等の情報発信も行っています。
栗原様はどのような研究に携わられているのですか。
私は、電力を送るために使用される地中ケーブルにおいて使われている絶縁材料の劣化現象、特に水トリー劣化や部分放電劣化現象の解明や診断手法の開発、原子力発電所における制御用通信ケーブルの絶縁材料の熱・放射線劣化現象について研究を行ってきました。
電力機器の劣化状態を的確に把握し、その評価技術や手法を検討することで、ケーブルや電力機器の余寿命推定の手法にもなり、さらには、電力を発電・送電・変電する場合のコスト低減にもつながります。
電力を送るために地中で使われるCVケーブルは、金属の周りがプラスチック(絶縁体)になっており、経年劣化により絶縁体部分に水が入ることがあり、電気の影響を受けて水分の多い部分が木のように伸びていく現象が発生することがあります。これを水トリーと呼びます。水トリーが発生して絶縁体が正常に機能しなくなるとCVケーブルの故障につながります。
部分放電劣化
雷は空気中を電気が流れる現象で、雷雲に発生した電気が「放電」されます。このような放電が、電力設備の絶縁材料に含まれる小さい隙間(空気や油の隙間)で発生することがあります。これを部分放電と呼びます。部分放電が起こると、その周りの高分子絶縁材料を侵食するので、故障の原因になります。
この内、絶縁材料の内部で発生する放電現象(部分放電現象)を調べる際に、絶縁材料に高電圧を印加するための金属電極から放電が発生しないように形状を工夫するとともに、金属電極全体をエポキシ樹脂やシリコーン樹脂でモールドすることがあります。
エポキシ樹脂やシリコーン樹脂は主剤と硬化剤を混合するタイプであり、両者を適正量混合した後、発生する気泡を除去する必要があります。エポキシ樹脂やシリコーン樹脂の内部に気泡が残存しますと、この気泡の部分で放電が発生する可能性があります。「あわとり練太郎」を用いることで、主剤と硬化剤の混合と真空脱泡を同時に行うことができます。
また、私が所属するグループでは、電力設備に使用される固体絶縁材料の劣化や評価に関する研究も行っており、全固体変電所の要素技術としまして、全固体変圧器とケーブルを接続するコネクタ(ハイパーコネクタと称す)の開発において「あわとり練太郎」を活用しています。
さらに、ケーブルの接続部の異種絶縁材料の界面において、絶縁材料から析出した物質が固化して部分放電が発生する現象の解明に向けて、析出物を模擬するための材料を作製する際にも「あわとり練太郎」を活用しています。
「あわとり練太郎」を使用することで、絶縁材料を独自に作製することができるため、様々なニーズに対応可能となり重宝しています。
ハイパーコネクタのモデル 山型の断面形状を有する接続コネクタに、接続コネクタ部への分割型真空容器の設置などによる真空下(1Pa程度)での接続手法の適用により、絶縁耐力が3割以上向上し、コンパクト固体絶縁接続部への適用が可能となります。 引用:電力中央研究所パンフレットより |
練太郎の導入経緯やきっかけについてお聞かせください。
私の先輩の研究員が、エポキシ樹脂にナノ粒子・マイクロ粒子を分散混入させるための効率的な手法を検討している中で、真空中で混ぜることができれば脱泡に要する時間を短縮できるだろうと考えていました。
その時、インターネットの記事で、サンプル槽を真空にしながら混合が可能な「あわとり練太郎」を知り、シンキーさんのショールームにお伺いして装置を拝見し、動作条件などを伺い、当時の課題解決への適用可能性が高いことが把握できました。また、当所でのデモも実施して頂き、適用可能性を確認した後に導入を決定しました。
エポキシ樹脂にナノ粒子を分散させることには課題がありましたが、マイクロ粒子を均一に分散させて、気泡を除去でき、課題の解決に役立ちました。
電力中央研究所栗原様と真空タイプのあわとり練太郎ARV-310
ARV-310は、どのような用途、工程でご利用されていますか。
練太郎は次のような用途の他、様々な用途で使用しています。
・エポキシ樹脂やシリコーン樹脂の主剤と硬化剤を混合し、真空脱泡する。
・シリコーン樹脂の主剤と硬化剤を混合し、カーボンブラックを混合して、真空脱泡し、半導電性材料を製作する。
(全固体変電所の要素技術であるハイパーコネクタの開発)。
・シリコーン油にチタン酸バリウムの微粒子を均一分散させて、真空脱泡する。
(ケーブルの接続部の異種絶縁材料の界面における部分放電現象の解明)。
最後にひとことお願いいたします。
電力設備では、信頼性の高い固体絶縁材料が使用されておりますが、使用環境によっては、電気的・熱的・機械的・環境的な要因によって劣化が進み、いずれ寿命を迎えます。また、固体絶縁材料の変遷とともに、劣化の進展速度や劣化メカニズム自体も変わってきています。
電力中央研究所は、長い年月をかけて養った絶縁材料の評価技術を有しており、そういった技術を活かして、現在運用されている電力設備、特に電力ケーブルで使用される固体絶縁材料の寿命評価につながるような研究、水トリー劣化現象や部分放電劣化現象の解明につながる研究、水トリーや部分放電による固体絶縁材料の劣化状態を把握する診断技術の開発などを行っていきたいと考えております。
こういった研究を行っていく中で、エポキシ樹脂やシリコーン樹脂の主剤・硬化剤(場合によっては微粒子も)の混合と真空脱泡を同時に、かつ確実に行うことができる「あわとり練太郎」は、弊所の材料評価において非常に役に立つ装置であり、今後も大事に使用していきたいです。
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電力中央研究所様について
名称:一般財団法人電力中央研究所
本部所在地:〒100-8126 東京都千代田区大手町1-6-1
研究施設:横須賀地区、我孫子地区、狛江地区、赤城試験センター、塩原試験場
人員:研究698人、事務87人 合計785名(2020年7月 現在)
ホームページ https://criepi.denken.or.jp/
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