「次世代電池の研究に不可欠なナノ粉砕機 NP-100」ユーザーインタビュー
2015/05/27
今回は、今注目の、大規模電力貯蔵用電池や燃料電池の研究に、ナノ粉砕機NP-100や練太郎がどのように役立っているのか、津島教授に興味深いお話を伺いました。
1.現在の研究概要をご紹介いただけますか?
現在の主な研究対象は「フロー電池」(レドックスフロー電池)や、「固体高分子形燃料電池」(PEFC)などの次世代電池です。「フロー電池」は、バナジウムなどのイオンの酸化還元反応を利用して充放電を行う蓄電池で、電解液のタンクを大きくすれば、それに比例して蓄電容量が増えるため、大型化が容易です。従って、近年、日本でも注目を浴びている大規模電力貯蔵用のデバイスとして活躍が期待されています。
大規模化と同時に重要なのが電池デバイスの高性能化ですが、私が取り組んでいるのは多孔質炭素電極に電解液を効率的に供給し、電極と電解液で形成される相界面を極限まで利用することにより、「フロー電池」の性能を飛躍的に向上させるという研究です。
2.NP-100導入のきっかけと活用領域を教えていただけますか?
昨年の7月まで、東京工業大学の大学院に勤務していたのですが、数年前「固体高分子形燃料電池」の電極材のスラリー調製用に、自転・公転ミキサー「あわとり練太郎」(AR-250*)を導入しました。
それまでは乳鉢で手撹拌をしていたのですが、ある燃料電池業界の方から、「あわとり練太郎」がデ・ファクト・スタンダード(de facto standard:事実上の業界標準)だと紹介されたのがきっかけで使い始めたのです。その結果、悩みの種だった作業者による仕上がりのばらつきが解消し、実験効率が格段にアップしました。
その後、JST戦略的創造研究推進事業さきがけ「エネルギー高効率利用と相界面」プロジェクトの一員として「フロー電池」の研究に着手し、電極材料であるカーボンの粉砕/解砕用途で、ナノ粉砕機「NP-100」を導入しました。前述した多孔質炭素電極は、従来型の物は分厚く、イオンの移動距離が長くなるため性能が伸びない、という問題がありました。しかし、薄くするとイオンが反応する面積が小さくなってしまいます。そこで、薄い電極の表面に緻密なカーボンのレイヤーを作り、表面積を増やすことによって十分な反応面積(反応量)を確保でき、薄さと性能の両立が可能になる訳です。その緻密なカーボン粒子を解砕するために、NP-100を使います。
また、カーボンを電極に載せる際には、カーボンと溶媒をインク状にして、インクジェットプリンターで塗布する(乾燥するとカーボンだけが残って付着する)のですが、インクジェットプリンターのノズルの径が小さいので、カーボンの粒子径を微細に保つ必要があり、NP-100の解砕機能は非常に重宝します。加えて、超微量の処理が可能である、温調(冷却)ができる、再現性に優れている、といった点も求めていたニーズに合っていました。外部から研究の見学に来られる方からも羨ましがられることしきりです。
電極材料は混練・混合・解砕がキーですから、今後もこの装置を大いに活用して、将来のエネルギーデバイスのための研究開発に貢献したいと思っています。
3.機械がご専門で電池の研究をされるのは割と珍しいのではないでしょうか?
確かにあまりないですね。通常は、材料とか化学の領域だと思います。ただ、物を大型化したり、性能を突き詰めたりする際には、最終的に物に仕上げる人間が必要だと思っています。
物に仕上げる時に、どこか一ヶ所問題があるだけで性能が出なくなるものですが、どこにその問題があるのかは、物を作り上げる人間でないと把握しにくい面があると思います。そして、その次にどこを集中的に見たらいいのか、また、個々の箇所で施したことを全体として見た時にどこが本当に効いているのかを見極める力も重要になります。機械というのはそういう学問だと思っています。
私は自動車に関する研究(ディーゼル微粒子フィルターの研究など)も行っていますが、実際、自動車用エンジンや排ガス処理デバイスも上記のような視点を持って初めて良い物ができるのだと思います。
電池も今、同じ視点の技術者なり研究者なりが必要だと考えているので、学生達にはそういうところをやりなさい、と洗脳しています(笑)。
「フロー電池」も「固体高分子燃料電池」も、日本の次の基幹産業として、なんとしても確立しなければと思っています。どちらも他の国が簡単に真似できない領域を持っているデバイスであり、混ぜる、粉砕する、コーティングする等、電極形成に関わる工程は、大規模、大面積でやろうとすると緻密さが要求されるものづくりなのです。今後、電池の産業は、大型化と高出力化が主戦場となっていきますから、日本が技術面でリードしていけるよう、尽力したいと思います。*AR-250:販売終了(後継機種ARE-310)
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津島先生、貴重なお話をありがとうございました。蓄電池の世界市場は2020年に20兆円規模になるとも言われていますが今後益々、先生の研究にシンキーの製品がお役に立てば幸いです。
津島 将司 教授 略歴
1972年生まれ。大阪府出身。
1991年に大阪大学工学部機械工学科に入学し、噴霧燃焼に関する研究で学位を取得(1999年大阪大学)。その後、日本学術振興会特別研究員として、1年間、英国インペリアルカレッジ・ロンドン 機械工学科にて振動燃焼の研究に従事。2000年から東京工業大学 大学院理工学研究科 機械制御システム専攻にて助手、准教授を務め、固体高分子形燃料電池、フロー電池、リチウムイオン二次電池、ディーゼル排ガス浄化フィルター、二酸化炭素貯留、などの研究に従事。2012年10月より科学技術振興機構さきがけ研究員(兼務:2016年3月まで)。2011年より International Journal of Hydrogen Energy の Assistant Subject Editor を務める。2014年7月より大阪大学 大学院工学研究科 機械工学専攻に着任し、現在に至る。
【所属学会】
日本機械学会(熱工学部門幹事(2012)、熱工学部門総務委員会幹事(2013)など)、日本伝熱学会(広報委員会委員長(2010, 2011)など)、American Society of Mechanical Engineers (ASME)、Electrochemical Society(ECS)、など。
津島研究室HP
津島研究室HP 研究設備ページ (ナノ粉砕機とあわとり練太郎をご紹介していただいています)