こだわり抜かれた義肢製作の現場を訪ねて ~愛和義肢製作所様 インタビュー
2019/12/23
今回は、義肢装具の分野でも特に装飾性・審美性の向上を目的とした製品を手掛けられている、株式会社 愛和義肢製作所 代表の林 伸太郎様へのインタビューの模様をお届けします。
ご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、林様は2014年にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」でも紹介された義肢装具士でいらっしゃいます。また、大河ドラマ「いだてん」では主人公が裸足で走るシーンがありましたが、野山を走る演技のために裸足シューズを作成されたそうです。
義肢製作への思いやこだわりや練太郎活用についてなどを伺いました。ぜひご覧ください。
愛和義肢製作所さんについて教えてください。
株式会社 愛和義肢製作所ではシリコーン製の義指・義肢(義手、義足)を完全オーダーメイドで製作しています。特にリアルな義手を専門に作っています。
爪、しわ、血管やシミなど見た目だけでなく、ご依頼者の要望に応じて機能面にもこだわりをもっています。たとえばナイフとフォークを使うシーンで使用する義手は自然に持っているような形にするのはもちろんですが、フォークの柄を押さえやすくするために少しへこませる部分には固いシリコーンを使用するなど、細部も工夫をしています。シリコーンに様々な添加物を混ぜることで強度や堅さを調整し、多い場合には1つの義手に10種以上のシリコーンを使い分けています。
フォーク専用の義手。手の平中央のへこんでいる部分は、たしかに固くなっていました。
義肢を制作するうえでのこだわり
リアリティーというのは、単純に見た目だけではなく、「その人っぽく」つくることだと思っています。私たちが作るのは手などの失われた部分ですが、そこだけを持ってきて再現するのではまだまだです。指1本でも失った部分に人生が込められているので、ご依頼者がどんな生活をしているのか全体をみせていただくことが大事です。手には顔と同じくらい表情が出ますので、実際に触らせていただくこともありますし、ヒアリング中もご依頼者の仕草や顔をよく見てその方を感じとります。顔の写真も撮らせていただきます。そうやってご依頼者との対話を大切にし、その方の期待以上のものをバシッと作る、それが私たちプロの技術です。作っている自分自身の感動がなければ、人も感動しないのです。そして義手をつけるご本人だけでなく、その手に触れる家族の方にも違和感があったら作り直しの真剣勝負です。
「お父さんの手だ!」とご家族に言ってもらうようなものにしていかないと、ご本人にも体の一部として認めてもらえないですよ。
今まで2000名程の方々と直接対面し義肢を作ってきましたが、義肢ができあがると泣いて喜んでいただける方も多く、そういう「明らかに違う」とハッとするような感動を意識しています。
また、リアリティーのある義肢ですから、その人の一部だけがいつまでも若いということはなく、義肢も一緒に年をとります。会社は2004年に設立ですが、個人で製作している頃から20年以上のおつきあいのある方もいて、リピーター率は高いです。
こだわりの義手の数々。性別や年齢、さまざまな背景が想像されます。
動かせる義肢
近年はX-Finger®という動かせる義肢の製作にも取り組んでいます。元はアメリカの技術ですが、日本の公的支給の対象にする登録、提案、迅速にメンテナンスができるように5年ほど研究開発し日本での正規製造元になりました。
研究職を雇えるような企業規模ではないので、産学連携で大学の先生の協力も仰ぎながら、今でも把持力をアップさせるなど改良研究を続けています。作り手として感覚でわかっていた所も先生にどのようにしたいのかを相談すると、具体的な数値や数式で答えていただけますし、製作者と研究者同士がマニアックなプロフェッショナルとして通じるところも多く、良い関係が築けています。
X-Finger®は金属のみで構成されていますが、将来的にはリアルなシリコーンの外見を加えるなど、より多くの方に喜んでいただけるようなものに発展させていきたいと思っています。
左:X-Finger 右:アイディアは即メモをとるそうです。
日本だけではなく、海外からの製作依頼もあるのですか?
依頼はほとんど日本の方からです。2014年に放映されたNHKプロフェッショナル仕事の流儀を見たという方が今も訪ねてくださいます。
他にアジア圏、ロシアなどからの反響もあります。海外に住む日本人の方が一時帰国されたタイミングで作りに来られることもあります。
北欧などでは手や足がなくても日常生活に溶け込んでいる風景が普通のようなので、義肢にリアリティーを求めない人も多く、逆にリアルすぎて気持ちが悪いという感想も結構いただきますよ。事件が頻発しているような国でリアルな義肢を持ち歩いていたらあらぬ疑いをかけられることもあるでしょうし…。
元々義肢装具士の資格に必要な勉強には基礎的な部分しかなく、リアリティーを求めるような勉強は必須ではなく、そういうものだけで事足りる国が多いような気がします。また、少し前にアフリカ トーゴ共和国の留学生を受け入れて技術指導をしましたが、アフリカでは感染症で手をなくす人が多いので、数が必要とされるようですし、環境事情や文化など国によって義肢のニーズの違いを感じます。学生の受け入れもそうですが、一人でも多くの人に義肢を行き渡らせるためにも、技術の公開については積極的に進めています。
展示会などではリアルで驚かれるというような段階は過ぎ、以前韓国で教えたこともあって、特にアジア圏にはリアルな義肢が広まってきた感覚があります。
実際の手とそれを反転させたデータを3Dプリンタで出力。ここからさらに調整を加えるそう。
義肢作りの中で、あわとり練太郎はどのように役立っていますか
主にシリコーンの色作りの段階で利用しています。リアルな義肢は多様な色のシリコーンを重ねて作っているので、色の再現性が重要になります。泡があると光が拡散して本当の色が分からないのです。あわとり練太郎で混ぜると泡がでないので、簡単に本当の色が見えるのが導入の決め手です。
肌の色の微妙な違いが繊細に表現されていました。
さらに手撹拌だと気泡を除去するのに1週間かかっていた作業時間が、あわとり練太郎を導入して圧倒的に短縮されました。
他にシリコーンの強度を上げる改質にも役立っています。シリコーンに粉を混ぜるのは職人でもムラをなかなか消せないですし、また朝の洗濯機音より静かだしと本当に助かっています。
実は導入の数年前にデモ機を借り、いったんお返ししたことがありました。「手で混ぜられるからいいか」とも思ったのですが、手作業だとどうしてもバラツキがでることが気になりました。しばらくたってから、「買えない価格ではないし、やっぱり練太郎がないとダメだ」と思い5年前に導入しました。
あわとり練太郎はうちのような中小企業や個人事業主には本当オススメですよ。少ない人数で様々な仕事をこなさないとならないので、まず混ぜることは練太郎に任せて他のことをする時間ができることは大きいと思います。
義肢作りはともかく集中力が必要な仕事です。集中している時間には早く良いものができることを実感していますから、会社として、スタッフが集中して早く良いものを作る環境作りにも試行錯誤しています。時間で解決しようとすることには無理が出てきます。徹夜で良いものはできませんし、集中力に勝るものはないですね。
もちろん時間だけでなく、混ぜるという単純な行為でも専用機が混ぜるとクオリティーは違います。練太郎を使用後に振り返れば、自分が手作業で混ざったと思っていたものも、本当の意味では混ざっていなかったとも思うほどです。再現性の高い練太郎で「本当の混ぜ」を知ってしまうと、混ぜるクオリティーが、作るものの結果にもつながっていると感じています。
それから、中小企業だと混ぜるものの量も少ないし、狭い用途だけれども、試さなくてはならないことも沢山あるので、「あれも練太郎で混ぜてみたら違う結果がでるのではないか?」など、さらなる物づくりの発想の広がりができるなとも思っています。
ところであわとり練太郎という名前も面白いですね。機械に名前がついていると、親近感がわきますね。これからもあわとり練太郎にはスタッフの一人としてがんばってもらいます。
製作作業風景。微妙な色が違うシリコーンを重ねて作っています。
インタビューを終えて
ご依頼者の背景までも込められた、こだわりのある義肢を手にとると、自然に心が動かされました。美術品と称されるほどの義肢を作る、まさにプロフェッショナルな職人に練太郎の利便性を言葉にしていだたき、ご活用いただいていることを誇らしく思いました。
また10年も前から「働き方改革」も実施されていて、愛和義肢製作所様ならではの業務リズムを確立されたとのこと。義肢製作のみならず、多方面に目を向けられ試行錯誤を続けられている林さんのお取組み、たくさんの刺激をいただきました。
これからも義肢を必要とされる一人でも多くの方々へ届くように、引き続き練太郎も役立てていただきたいです。
吹き抜けの天井で解放感いっぱいの新社屋にて、スタッフの皆さんと驚くほどのびのび成長中のベンジャミン
株式会社 愛和義肢製作所 (https://aiwa-gishi.jp/)
所在地:東京都練馬区栄町19-1
設立:2004年1月