あわとり練太郎と辻田漆店-江戸時代より営む漆屋-
2025/03/03
日本の伝統が息づく越前市にやってきました。この地域では、越前和紙、眼鏡フレームや風味豊かな越前そばなど、特産品多くの特産品が愛されています。 今回は、そのなかの一つ、越前漆で使用する漆原料卸商を営む名店・辻田漆店さまを訪れ、インタビューさせていただきました。創業以来受け継がれる漆塗りの技術や、現代のニーズに応える新たな取り組みや、弊社のミキサーがどのように活用されているのか伺いましたのでご注目してください。本記事では、前半・後半の二本立てでご紹介いたします。
辻田漆店について
辻田漆店さま(以下辻田漆店)は、長年にわたり日本の伝統工芸である漆塗りを支えてきた漆原料卸商の老舗企業で、主に日本国内や中国で採取された漆を精製して販売しております。創業以来、厳選した漆と卓越した技術を駆使し、高品質な漆を精製しております。伝統を守りつつも現代のニーズに応えるべく、製造工程に最新技術を積極的に取り入れる姿勢も特徴です。また、使用する原料にもこだわり、漆の魅力を最大限に活かした販売に取り組まれています。
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【Topic:漆(うるし)とは】漆は、ウルシ科の落葉高木から採取される樹液で、主に天然樹脂塗料や接着剤として使用されます。1本のウルシの木から採取できる漆の量は、コップ一杯ほどといわれています。辻田漆店では工場の入り口にウルシの木が飾られております。漆搔きをした痕がしっかりと刻まれています。 |
ワークショップで漆塗りに挑戦!漆の魅力を体験しよう
辻田漆店では、漆をより身近に感じてもらうためにワークショップの為の工房を新設されたそうです。シンキースタッフも漆の知識を深めるため、お箸の漆塗りに挑戦させていただきました。辻田さん、インタビューの前ですがワークショップ体験よろしくお願いいたします!
漆の性質に触れよう
今回は「ふき漆」という技法でお箸の漆塗りをしていきます。ふき漆とはその名の通り、生漆を拭き取りながら浸透させていく技法です。この技法は、食器や装飾品など、さまざまなアイテムに広く使用されています。ケーク紙と呼ばれる専用紙に生漆をつけ、お箸の木目に沿って漆を伸ばした後、余分な漆を拭き取っていきます。漆が乾いたあと、表面をペーパーで磨き、漆塗り→拭き取り→乾燥→漆塗りの工程を2、3回繰り返します。
この手間ひまをかけた作業を繰り返すことで、漆がしっかりと木に浸透し、最終的に美しい仕上がりになります。
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【Topic:生漆(きうるし)とは】精製されていない漆を「生漆(きうるし)」と呼びます。生漆はウルシの樹皮を傷つけて採取され、木屑などを取り除いた状態で使用されます。そのため、産地によって乾きや粘度に違いがあり、適度な温度(15~30℃)と湿度(50~80%)の条件のもとで硬化します。用途によって、産地の特徴を生かした配合にブレンドします。 |
【ワークショップ体験!】
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1.敷板へ生漆を出していきます 今回使用した漆は3種の原産がブレンドされている生漆です。 産地によって香りも異なります。こちらを敷板に少量出していきます。 |
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2.ケーク紙をくしゃくしゃにします 漆を塗り、拭き取るために使用するケーク紙と呼ばれる紙を使っていきます。 凹凸が出るように柔らかくクシャクシャにします。 |
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3.ケーク紙をまるく持ち、漆をわずかに付けます 少量の漆をケーク紙につけます。 この時余りつけすぎると塗りにくくなるため、まずは少しだけつけていきます。 |
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4.下から上に、木目に沿って塗ります 漆を塗っていきます。むらができないように調節しながら塗っていくのがポイントです |
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5.拭き取ります このとき手が触れないようにケーク紙で包み込みながら拭き取ります。 |
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6.乾燥させます 漆の乾燥は、コントロールが非常に難しく、季節に応じた調整が必要となります。 |
この工程を繰り返し、皆さんがよく見る漆器が出来上がります。今回はお箸に漆塗りをしていますが、漆は基本的にどんなものにも塗ることができます。ここは越前漆器の里に位置しているため、例えば「蒔絵を教えてほしい」といったリクエストがあれば、その技術を持った職人が飛んできてくれるかもしれません。実際、自分が使う道具に漆を塗りたいという方も多く、キャンプ道具や蒔絵を施したアイテムなど、さまざまな漆作品が生まれています。
【Topic:蒔絵(まきえ)とは】
漆器の表面に漆で絵や柄を描き、その上に金や銀などの金属粉を蒔いて装飾する技法
漆体験を通じて
辻田さん、ふき漆について丁寧に教えていただきありがとうございます!そして出来上がったお箸がこちら。漆特有の滑らかな輝きが美しさを際立たせており。最初に塗った生地とは比べ物にならないほどに、高級感溢れるお箸となりました。今回の漆塗り体験では、漆特有の香りを楽しみながらその魅力に触れることができました。生漆という薄茶色の漆は、時間が経つにつれ、こげ茶色になり、漆が生きているという言葉が実感でき、漆の知識がより深まりました。そして、これまでのワークショップで完成した作品を見せていただきました。美しい漆器、積み木をはじめちょっと変わったコラボ商品が。気になる方はぜひ辻田漆店さまへ!
【辻田漆店さまの昔話】体験者の中には「ウルシに触れたらかぶれますか?」という質問をよくいただきます。結論から申し上げますと、かぶれる、かぶれないは人それぞれで判断が難しいです。昔話にはなりますが、子どものとき家庭訪問っていうものがありました。学校の先生が家まで、様子見にいらっしゃいます。その際先生が次の日に真っ赤な顔でかぶれてしまっていたことがありました。勿論工房には入っていなかったのですが、前を通っただけで症状が出てしまったようです。逆に私は子供のころから工房でよく遊んでいましたが、かぶれることはありませんでした。ウルシは触れるだけではなく、空気中に存在する成分でもかぶれてしまうようです。
漆を見つめて百五十年- “越前衆”の派遣を行う江戸時代より漆屋を営む
体験を通じて、漆の美しさと技術の繊細さを改めて実感しました。その上で、漆がどのように受け継がれてきたのか、さらに漆の歴史についても辻田様にお伺いしました。
越前衆と漆搔き職人
越前地方の漆搔き職人は、漆を採取するだけでなく、漆の質を見極める眼力や、適切な採取タイミングを読む技術が必要でした。農閑期(田植えが終わった5月から稲刈りが始まる前の9月頃まで)には当地より日本全国へ漆掻きに行っておりました。その方達は「越前衆」と呼ばれ、良質の漆を掻くことで有名でした。越前衆の方達が、漆掻きに出向くとき、当地の打ち刃物の鎌を持参して販売をしていたことから、鎌先商いも全国的に有名になりました。これらの技術は代々受け継がれていきました。また、当時福井藩を治める四賢侯のひとり、松平春嶽は幕府との繋がりが深く、福井の産業発展に寄与していた歴史があります。その際漆を各地に納めたことにより越前の漆が広まったとされています。
辻田漆店の歴史
私たちは、江戸時代より漆屋を営み、全国の皆様に漆を納めさせていただいております。150年以上使われてきた工場や蔵。新しいものもあれば、特定できないくらい古いものもあります。時代とともに少しずつ、便利な機械も採り入れてきました。そんな私たちの歴史は江戸時代後期に商いをしていた記録を150年以上。当時より関東(茨城)・東北の方へ越前衆を派遣し、採取した漆を買い取り大阪の問屋に納めていた記録が残っています。 東北の方に「越前屋」と言う漆屋さんがあるように、全国の漆屋さんに、福井県関係者が多くおられるのは、そのためです。 辻田漆店は、現在6代目となり、製造機を使用した精製方法に加え、全て手作業で行う「手グロメ」 と呼ばれる伝統的な製法を受け継いでいます。「手グロメ」で精製された漆を製品化しているのは弊社のみかもしれません。
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【Topic:辻田漆店には数百年前に建てられた漆蔵がある】辻田漆店には「漆蔵」と呼ばれる日本伝統的な土蔵造りの蔵があります。築200年以上、漆を保管する蔵として使われてきました。年中ほぼ同じ温度湿度を保っているのでの保管には最適な場所です。壁や外装に土や粘土、漆喰を多く使用している。土蔵造りの特徴は、耐火性を高めるために土や焼き物を使った構造を採用し、特に火事が多かった江戸時代などの時期に重宝されました。そしてこの蔵の内部には数十年、数百年前のものまで保管されているそうです! |
生きている樹液「うるし。」
日本で最後の手グロメ技術

手グロメの精製の様子
漆は生きていますが、その中でも最も実感できるのは手作業で行う伝統的な製法「手グロメ」です。日の下である特殊な条件のもと攪拌することで水分が抜けていき、精製漆が完成します。この作業は数時間かけて漆の中の水分調整を行うのですが、漆の乾燥方法は「普通の乾燥」とは異なります。主成分としてウルシオールを含み、空気中の酸素や湿度と反応して水分を取ります。そのため、季節やその日の湿度によって仕上げるタイミングが異なり、漆との対話を行いながら仕上げる必要があるのです。
また、その際使用する手グロメ鉢と呼ばれる鉢によっても漆の出来は異なります。その変化は仕上がり後の艶の出方に影響します。西日本では円形型の鉢が多く、マットな漆が完成します。一方、四角い形の鉢が多い東日本ではやや光沢のなる漆が完成するようです。手グロメで仕上がった漆はとても柔らかく、刷毛ののびも良く高品質な漆になります。
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【Topic:漆の乾燥は蒸発ではない】漆の乾燥方法は蒸発とは異なります。ウルシオールを含み、空気中の酸素や湿度と反応して「酸化重合」という化学反応により硬化します。通常の乾燥が水分や溶剤の蒸発によるのに対し、漆は高湿度の環境で酸素と反応することで硬化します。漆を塗った後の乾燥中は湿し箱(むろ)を使用して適切な湿度を保つ必要があります。この特性により、漆は深い艶と高い耐久性を持つ仕上がりになります。しかし、季節ごとや日によって乾燥時間が異なるため見極めるのはなかなか難しいです。 |
まとめ
辻田漆店様でのインタビューを通じて、漆という素材の奥深さとその魅力を改めて実感しました。伝統的な「手グロメ」製法を受け継ぎながら、最新技術も取り入れていらっしゃり、日本の伝統工芸を未来へ繋ぐための強い意志を感じました。漆塗りのワークショップでは、自らの手で漆を塗る過程を経験し、漆の独特な香りや質感、そしてその変化に触れることで、自然の力と人の技の調和を実感しとても貴重な時間を体験することが出来ました。次回は、辻田漆店様の工房で、あわとり練太郎がどのように作業に携わり、漆の精製工程をサポートしているか、詳しくご紹介いたします。
会社名:有限会社辻田漆店
所在地:〒915-0261 福井県越前市朽飯町22-24(Googleマップ)
代表:辻田 知彦
TEL:0778-42-1034 FAX:0778-42-0030
事業内容:日本産漆・中国産漆の精製販売を専門とする各種類の精製漆・生漆・漆に関する副材料品を販売
ウエブサイト:https://tujita.co.jp/