暗がりの街を明るくしたい。~W容器とARV-310LEDの開発経緯
2020/03/02
高粘度、しかも高比重の材料を撹拌するのに苦労をされている方は多いのではないでしょうか。
様々な工夫をされている方もおられると思いますが、シンキーにお声がけをいただくと「W容器」と「高比重材料専用ミキサー(ARV-50LED,ARV-310LED)」をご紹介しています。
今回は、これら「W容器」と「ARV-310LED」が開発された経緯について、お話しさせていただきます。
中国のLEDメーカー様からのご相談で
あわとり練太郎は様々な業界で、日本国内はもとより、欧米や、その生産拠点となる東南アジア、東欧でも利用されています。中でもLED用途(シリコーンへの蛍光体分散)では、以前から数多くの企業様に使用いただいており、弊社も微力ながら、LED照明を世界に普及させることに貢献できていることを大変うれしく思います。
10年以上前に、中国のあるLEDメーカーに初めてお邪魔したことがきっかけで、LED向け製品の開発が始まりました。
到着してすぐに暗い部屋に通され、「今から当社の最新モデルのLEDを点灯させますので、驚かないように注意してください」といわれた瞬間、壁に取り付けられたLEDが強烈に光りました。
※写真はイメージです。
当時、日本ではLED照明が店頭に並び始めた頃でした。LED電球1つが数千円と高価で、私の家にはまだLED照明はありませんでした。見慣れていなかったせいもありますが、その光の強さにとても驚いたことを覚えています。
「高比重の蛍光体が上手く混ざらない」
このデモンストレーションの後、「相談がある」と、隣の部屋に通されました。室内には作業している方が数名と、当社の「あわとり練太郎 ARE-250」(現行モデル:ARE-310)が3台置かれており、機械は絶え間なく動いていました。その時、「先ほど見てもらった高輝度LED用の蛍光体、実は上手く混ざらないんだよ」と、材料を見せてくださいました。
※写真はイメージです。
それまで見てきたどの蛍光体よりゴツゴツ感があり、一目して粒径が大きいことが分かりました。これをこのまま撹拌したのでは、きれいに分散できずに沈殿する可能性があると、直感的に思いました。実演していただくと、やはり容器底に蛍光体が沈殿していました。
そして、その方は両手で私の右手を強く握りながら「LED照明を世界に広げるためにも、ぜひきれいに撹拌できるようにして欲しい」とおっしゃるのです。お客様の熱意が伝わってきました。
この当時、中国では様々な企業がLED市場に参入していて、それぞれの企業が多かれ少なかれ、撹拌に課題を抱えていました。材料を見ると同じような蛍光体で、何とかきれいに撹拌する方法がないかとどこの企業様でも相談され、解決策が見出せていなかった私は、お詫びするほかありませんでした。
※写真イメージです。
当時の中国の地方都市では、街灯がない暗い場所が多く、こういった場所にLEDの街灯がつき明るくするためにも、何とか問題を解決したいと思った次第です。
比重差のある材料を混ぜる方法として、沈殿させないように公転を遅くするか、自転と公転の比率を調整することが考えられますが、それでは効果は限定的で、とてもお客様の要望に応えられるものではありませんでした。思ったより手ごわい課題でしたが、実験に行き詰まると、中国で見た街灯のない暗い街のことが脳裏に浮かび、その度に奮起して実験を続けました。しかし、ただ機械を調整するだけでは限界を感じ始め、徐々に社内では諦めムードが漂ってきました。
子供向けの番組を見ていたら
課題に取り組み3~4か月経ったころでしょうか。自宅でテレビを付けたら、子供向けの理科番組が放送されていました。何の気になしに見ていると、白衣を着た先生が丸底フラスコを持って登場し、それに水を入れ、バーナーをセットし、火をつけました。これで熱対流が生じることを説明していたのです。温まった水が上方に移動し、水面を外方向へ移動して、また下のほうへ動く様子を見て、練太郎の中で対流する材料が思い浮かび、これはもしかして!と思ったのです。
※写真はイメージです。
丸底フラスコのように容器の底が丸ければ、対流してきれいに撹拌するのではないかと気づいた瞬間でした。
早速試すと、今までで一番きれいに撹拌できました。さらに試行錯誤した結果、容器の真ん中に凸形状を設けた容器にたどり着きました。出願特許にも記載しましたが、ポイントはきれいな円を容器内側に作ることです。
この容器断面がアルファベットの「W」に似ていたので、のちにW容器と呼ばれるようになりました。そしてW容器と最適化した機械(のちのARV-310LED)を中国のLED企業へ持ち込むと一度できれいに蛍光体を撹拌することができたのです。社内ではさんざん実験をしていたので上手くいくとは思っていましたが、ここまできれいに撹拌できるとは想像していませんでした。お客様以上に私のほうが感動していたかも知れません。
それから5~6年後、再び中国へ訪問した際、地方都市に行く機会がありました。車から外を見てみると、LED光源の街灯があちこちについていました。練太郎がどれだけ貢献できたか分かりませんが、街が明るくなると、そこに住んでいる方の生活は楽になるでしょうし、LED材料についての課題に取り組むことができ、本当に良かったと思います。
完成した機械はARV-310LED、そして丸底フラスコからヒントを得て作ったW容器として、販売させていただいています。開発のきっかけがLEDの撹拌だったため製品名にLEDを付けましたが、LED蛍光体に限らず高比重材料の撹拌にもってこいです。
高比重材料の沈殿でお困りの場合は、ぜひARV-310LEDをお試しください。
当時既に販売されていた真空タイプの「あわとり練太郎」ARV-310(現行機種:ARV-310P、通信機能が付いています。)と、今回のお話に出てくるARV-310LEDはまるで双子のように瓜二つ!
上記写真の左側が、ARV-310LEDです。パネル部分に微妙な違いがある程度の見た目の差ですが、撹拌結果には違いが出ます。